この記事の結論
アプリ開発の特許調査は、主要機能の設計段階から始め、仕様変更やリリース前に見直すことが重要です。 請求項と実装を比較し、審査経過も踏まえて、特許リスクを抑える実装方法を検討します。
特許を探しやすくなった。その情報を、いつ開発に使うか
2026年7月2日、WIPO(世界知的所有権機関)は、特許検索サービス「PATENTSCOPE」に「AI-Assisted Search」を導入したと発表しました。探したい内容を自分の言葉で入力すると、AIが検索式を生成する機能です。追加の指示によって検索式を修正することもできます。WIPO
特許情報へたどり着くための道具が増えています。
商品を開発する企業にとって、次に考えたいのは、見つかった特許を、どの段階で確認し、何の判断に使うかです。
例えば、主要機能について複数の実装方法を比較しているとき。その段階で関連特許を確認すれば、設計を選ぶための材料になります。
本記事では、日本の特許を中心に、開発中の特許確認をどのように進め、商品化の判断へつなげるかを考えます。
開発中に確認すると、実装の選択肢を比較できる
新しい機能を作るときには、性能、操作性、開発工数などを比較します。そこへ、他社特許との関係も加えて考えてみます。
ある処理方式について、関連する特許が見つかったとします。設計を検討している段階なら、参照する情報、計算方法、処理の組合せなどについて、別の候補を挙げられます。
それぞれについて商品価値への影響と特許上の論点を確認し、採用する方法を選びます。
利用者が使い始めたサービスの仕様を変更する場面では、既存データとの整合性、操作方法の変更、利用者への説明なども検討対象になります。開発途中に確認する意味は、こうした影響が広がる前に、選択肢を比較できる点にあります。
商品化に向けて関連特許を調べ、他社の権利との抵触の可能性を分析する取り組みは、FTO(Freedom to Operate)調査・分析と呼ばれます。WIPOも、開発の早期から選択肢を検討することを勧めています。WIPO
何を作るかが見えてきた段階で、その作り方に関係する特許を確認する。 開発判断と特許調査を結び付ける、基本的な考え方です。
確認するタイミングは、開発の節目に合わせる
確認の時期は、「何を決めるための確認か」と結び付けると具体的になります。
例えば、次のような進め方です。
| 開発の段階 | 確認するテーマの例 | 開発判断への活かし方 |
|---|---|---|
| 主要機能の実装方針を決めるとき | 中核機能に関係する特許、採用予定の処理方式 | 実装方法の候補を比較する |
| 試作を進め、仕様を変更するとき | 変更するデータ、処理条件、機能間の関係 | 変更案を評価し、追加で確認する点を決める |
| リリース前 | 実際に提供する仕様と、それまでの確認内容との対応 | 残る論点と追加調査の必要性を確認する |
| 新機能の追加・提供地域の拡大時 | 新たに加わる処理、対象市場での関連特許 | アップデートや事業展開の方針を決める |
対象が広い場合には、中核機能や事業への影響が大きい部分から確認する方法もあります。
「来月のリリースに向けて、この処理方式を決めたい」「次のアップデートで、この機能を追加したい」。その判断と期限を共有すると、調査範囲や必要な資料を決めやすくなります。
特許のどこを、実装の何と比較するのか
比較の起点になるのは、権利範囲を記載した「特許請求の範囲」です。対象となる各請求項について、記載された構成要素とその関係を、実際の実装と照らし合わせます。
請求項に使われる用語は、明細書や図面を踏まえて意味を解釈します。この考え方は、特許法70条に定められています。
アプリでは、次のような観点で実際の処理を把握します。
| 請求項で確認する記載 | 実装側で確認すること |
|---|---|
| 取得する情報 | 入力項目、取得元、取得するタイミング |
| 参照するデータ | 計算や判定に使う情報、その保存先や更新方法 |
| 処理の条件・方法 | 分岐条件、計算式、判定基準 |
| 処理間の関係 | 前の処理結果を次の処理にどう使うか、実行順序 |
| 出力・制御 | 表示内容、通知、外部システムへの指示 |
| システムの構成 | 端末・サーバーなどの役割分担と情報の流れ |
例えば「需要を予測する機能」という説明から、「どのデータで需要を計算し、その結果を何の処理に使うか」まで掘り下げます。
画面上の機能から、内部のデータの流れや処理条件へ踏み込む。 そうすることで、請求項との対応を具体的に確認できます。
併せて、対象国、権利の存続状況、現在の請求項も確認します。日本の特許については、J-PlatPatで公報や審査経過、権利の状態に関する情報を参照できます。INPIT
審査経過から、出願人が主張した「技術の違い」を確かめる
審査経過を確認する目的は、他社特許の権利範囲を具体的に捉え、自社の実装や変更案との関係を判断することです。
特許の審査では、出願人が請求項などを修正する「手続補正書」や、審査官の指摘に対する見解を説明する「意見書」を提出することがあります。このやり取りの記録が、審査経過です。特許庁
引用文献との違いを、実装と照らし合わせる
特に注目したいのが、審査官が示した引用文献に対して、出願人がどこを相違点として主張したかです。
引用文献は、審査官が判断の根拠として示した、先行する特許文献などです。出願人がその技術との違いをどう説明したかは、請求項の意味を解釈する際の判断材料になります。知的財産高等裁判所
説明用の架空例として、出願人が意見書で次のように説明していたとします。
引用文献では、処理Aと処理Bをそれぞれ独立して実行しています。本発明は、処理Aで求めた予測値を使って、処理Bの提案内容を決める点に特徴があります。
この場合、自社アプリについて詳しく確認したいのは、処理Bが、処理Aの予測値を実際に利用しているかです。
処理Aと処理Bが同じアプリに搭載されているというだけの比較から、一方の結果を他方がどう使うかという、処理同士の関係へ踏み込みます。
その際は、意見書の説明、引用文献の該当箇所、請求項の記載を合わせて読みます。補正があれば、どの条件が加わったか、その理由は何かも確かめます。
出願人が「引用文献の技術とはここが違う」と説明した部分は、自社の実装のどこを詳しく確認すべきかを見つける手掛かりになります。
出願人の説明を、請求項全体の中で捉える
出願人の説明は、請求項のどの部分について述べたものか、引用文献の何と区別するための説明かを確かめながら読みます。明細書・図面や補正の内容も合わせて、その説明が請求項の意味をどう捉える材料になるかを検討します。知的財産高等裁判所
相違点として強調された部分を詳しく見たうえで、請求項全体と実装との対応を確認します。
審査経過は、実装上のどの違いが特許リスクの評価に意味を持つかを確かめ、仕様変更の判断に活かすための材料です。
実装に違いがある場合は、均等論も確認する
請求項の文言と実装が一部異なっていても、一定の要件を満たすと権利が及ぶことがあります。これが均等論です。
相違点が発明の本質にどう関わるか、置き換えても同じ目的や効果を実現するかなど、複数の要件を踏まえて判断します。実装変更を検討するときにも、この観点から変更の意味を確認します。最高裁判所
商品価値を保ちながら、変更の選択肢を考える
ここからは、商品化の判断を考えるための架空例です。
店舗向けの在庫補充アプリを開発しているとします。利用者に届けたい価値は、各店舗の欠品を抑え、補充の判断を早くすることです。
開発中のアプリでは、店舗ごとの不足量を計算し、他店舗から商品を移動する方法を提案しようとしています。
関連特許を確認したところ、ある請求項に「販売予測から店舗ごとの不足量を算出し、その不足量に応じて店舗間の移動数量を決定する」という構成が記載されていたとします。
まず、現在の実装がこの処理関係を満たすかを確認します。審査経過も読み、出願人がどの点を引用文献との違いとして説明したかを確かめます。
その結果を踏まえ、別の実装方法を考えます。
例えば、仕入先の供給可能数と配送日を基準に、各店舗への補充を提案する方式です。この候補については、特許との関係に加え、配送コスト、補充までの時間、店舗側の使いやすさも評価します。
商品として維持したい価値を先に置き、その価値を実現する方法を比較する。 これが、実装変更を検討するときの要点です。
変更案についても、対象の各請求項との関係を確認し、必要に応じて、新たに関係する特許を調べます。また、仕様変更のほか、権利者からライセンスを受ける方法も選択肢になります。WIPO
弁理士は、特許との関係や変更方向の評価材料を示します。開発側は、性能、費用、利用者への影響を踏まえて設計を決定します。
変更後の確認までつなげ、判断の前提を残す
変更案を検討した後は、実際に採用した仕様を確認します。
例えば、打合せでは「特定の条件が成立したときに処理する」と説明していた機能が、開発の途中で別の条件でも動くようになった場合です。条件の追加によって、前回の検討との関係が変わる可能性があります。
そこで、何を前提に確認したかを記録しておきます。
確認日、仕様書の版、対象の特許・請求項、参照した審査経過、実装について共有した条件、追加確認事項、次の対応。これらを回答メールや簡潔なメモに残すと、仕様変更後に見直す点を追いやすくなります。
特許情報の変化も確認する
日本の特許出願は、原則として出願日から1年6か月経過後に公開されます。優先権を伴う出願では、原則として優先日を基準にします。そのため、調査後に新たな出願内容が公開される場合があります。特許庁
また、出願中の請求項は、特許法17条の2で定められた時期と範囲で補正されることがあります。重要な出願については、その後の補正や審査の進行も確認します。特許庁
事業への影響が大きい出願の経過を追い、新機能の追加やリリース前の節目には、必要な範囲で検索を更新する進め方が考えられます。
自社の仕様と、他社の特許情報。その両方の変化を捉えることが、継続して確認する意味です。
相談は、今ある資料と確認したい機能から始める
相談の入口では、商品・サービスの概要、画面資料、処理の説明、気になる特許、直近の開発予定などを共有します。
特に、次の三つが分かると、検討を始めやすくなります。
次に実装する機能は何か。
その機能の、どの処理や特許が気になっているか。
いつまでに、何を決めたいか。
この内容を起点に、確認する範囲と優先順位、費用を決め、具体的な調査・比較検討へ進みます。検討の途中で、より広い調査や詳しい鑑定が適すると分かった場合には、対象と目的を改めて設定します。
他社の技術と比較する過程で、自社独自の工夫が具体的になることもあります。その場合には、商品化に向けた確認とあわせて、自社の特許出願の要否も検討します。
開発の節目に、知財の判断を組み込む
特許情報を探すための道具を、商品化の判断へつなげる。そのためには、確認の時期と、見つかった情報の使い方が重要です。
仕様を選べる段階で関連特許を確認する。請求項と審査経過を読み、実装との関係を捉える。商品価値を踏まえて変更を検討し、実装後に確かめる。
この一連の検討を開発の節目に組み込むことで、特許情報を、商品化を前へ進める判断材料として活用できます。
よくある質問(FAQ)
自社で特許出願している場合も、他社特許を確認する必要がありますか?
はい。自社の権利化と、商品化に向けた他社権利の確認は、目的が異なります。
自社の工夫に特許が認められる場合でも、その実装が他社のより広い特許の権利範囲に含まれることがあります。自社の技術を守る視点と、他社の権利を踏まえて商品を提供する視点の両方から検討します。WIPO
審査経過は、どこで確認できますか?
日本の特許については、J-PlatPatの経過情報から、公開対象となっている審査書類を参照できます。拒絶理由通知、意見書、補正書などを確認し、引用文献との関係をたどります。INPIT
相談時には、まず特許番号や公報と、比較したい機能の説明を共有いただくところから始められます。
相談時にソースコード一式を用意する必要がありますか?
まずは、対象機能の仕様書、画面、処理フローなどから確認を始められます。
判断に必要な分岐条件やデータの参照関係については、開発担当者から説明を受けたり、該当部分のコードを確認したりする方法があります。相談テーマに応じて、共有する資料と範囲を決めます。
AIで調べた特許や、AIが作成した比較表を相談に使えますか?
はい。候補となった特許番号、出典、検索条件、調査日とあわせて共有いただくと、検討の手掛かりになります。
比較表は、引用された請求項と実装の説明を原資料で確認します。未公開の仕様をAIサービスへ入力する際には、サービスの利用条件や情報の取扱いを確かめ、社内の情報管理方針に沿って共有範囲を決めてください。
既にリリースしたアプリについても相談できますか?
はい。現在提供している仕様と、今後追加・変更する機能を共有して、確認するテーマを決めます。
運用中のサービスでは、既存データ、利用者の操作、改修範囲への影響も合わせて検討します。次のアップデートに向けて、優先して確認する機能を選ぶ進め方もあります。
調査範囲や費用は、どのように決まりますか?
対象機能、提供地域、確認する特許、実装の複雑さなどを踏まえ、範囲と費用を事前に決めます。
「気になる特許と特定の機能を比較する」「主要機能に関係する特許を探す」「商品全体について詳細に調べる」など、目的によって必要な作業が変わります。
確認結果は、対象とした仕様、国・地域、調査時点、調査範囲を前提とする判断材料です。残る論点や追加確認の必要性も共有し、商品化の判断に活用します。
参考資料
- WIPO「PATENTSCOPE AI-Assisted Search Now Available」(2026年7月2日)
自然言語から検索式を生成するAI支援機能について。
- WIPO Magazine「IP and Business: Launching a New Product: freedom to operate」
開発段階のFTO、実装変更、ライセンス、自社特許と他社特許の関係について。
- e-Gov法令検索「特許法(昭和34年法律第121号)」
第70条:特許発明の技術的範囲。第64条:出願公開。第17条の2:明細書・特許請求の範囲・図面の補正。
- 特許庁「特許の拒絶理由通知書を受け取った方へ」
拒絶理由通知、意見書、手続補正書による対応について。
- オキサリプラチン製剤事件|知的財産高等裁判所大合議・平成29年1月20日判決
平成28年(ネ)第10046号。引用文献との差異を説明した意見書や明細書を踏まえた、請求項の文言解釈について。該当箇所は43〜44頁。
- ボールスプライン軸受事件|最高裁判所第三小法廷・平成10年2月24日判決
平成6年(オ)第1083号。均等論の基本的な判断枠組みについて。
- 特許庁「公報に関して:よくあるご質問」
出願公開の時期と、優先権を伴う出願などの取扱いについて。
- 特許庁「特許・実用新案審査基準 第Ⅳ部第1章 補正の要件」
特許法17条の2に基づく補正の時期と範囲について。
- INPIT「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」
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