執筆・文責:弁理士 中村幸雄(登録番号 第12870号)

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この記事の結論

特許相談は、構想や試作の段階から始められます。開発担当者と弁理士が、技術の特徴、公開予定、関係者の権利を検討し、企業側が出願方針と開発の進め方を選びます。発表や販売の予定があれば、その日付を最初に伝えてください。

「まだアイデアにすぎない」「試作品が完成していない」「特許にできるほど具体的か分からない」

製品発表、販売、展示会などを予定している場合は、その予定をもとに、技術を具体化する作業と出願準備の時期を考えます。

この記事では、構想、試作、共同開発、公開といった開発段階ごとに、いつ、何を相談できるのかを解説します。相談時に準備する情報を知りたい方は、特許相談で何を準備すればよいかを解説した記事もあわせてご覧ください。

1. 特許相談は、発明が完成する前でもできる

構想段階の相談では、開発担当者が課題と工夫を説明し、弁理士と一緒に出願候補や今後の開発課題を探ります。

構想段階の相談では、例えば次のような点を検討できます。

相談時点で、発明を明細書の水準まで言語化しておく必要はありません。

出願書類には、その技術分野の通常の知識を持つ人が実施できる程度に、発明を明確かつ十分に記載する必要があります。相談では、解決したい課題、技術的な手段、得られる効果を対話しながら具体化します。

まだ特許出願ができる段階でなくても、「何が決まれば出願を検討できるのか」を見極めることには意味があります。発明の中心を見つける考え方は、発明の本質とは何かでも解説しています。

2. 開発段階ごとに相談できること

開発段階相談できることこの段階で確認したいこと主な注意点
課題を見つけた段階技術的な発明へ発展する可能性誰の、どのような課題を解決するのか解決手段がまだ決まっていなくても相談できる
構想段階発明の中心、先行技術調査の要否、今後の具体化従来の方法と何が違うのかサービスの名称や目的だけでなく、具体的な処理や構成を明らかにする
設計・試作段階出願範囲、変形例、追加実験の要否必須の構成と変更可能な構成試作品そのものだけでなく、代替構成も検討する
外注・共同開発前秘密保持、成果の帰属、出願主体誰が発明者となり、誰が出願するのか契約締結前に権利の取扱いを確認する
発表・販売前公開前出願の要否、出願時期何を、いつ、どこまで公開するのかWeb掲載、展示、販売、提案などで新規性を失うおそれがある
公開後新規性喪失の例外、残された保護方法公開日、公開内容、公開した者例外規定には期限と手続があるため、すぐに相談する

開発が進むほど相談材料は増えますが、その一方で、設計変更の余地や公開前に出願できる時間は少なくなります。

「十分に完成してから相談する」のではなく、開発上の重要な判断が必要になった段階で相談するのが一つの目安です。

3. 構想段階では何を相談できるか

構想段階では、発明の完成度よりも、次の三つが手がかりになります。

  1. どのような課題があるのか
  2. その課題をどのような仕組みで解決しようとしているのか
  3. 従来の方法と比べて、どのような効果が得られるのか

例えば、「在庫管理をAIで効率化したい」という目的だけでは、具体的な技術内容はまだ分かりません。

一方で、次のような内容まで説明できれば、特許として検討する対象が見え始めます。

この段階では、開発担当者と弁理士が技術的な特徴の候補を見つけ、次の試作や調査で検証する事項を挙げます。

4. 試作段階では、出願対象をどう具体化するか

試作品ができると、動作する構成が具体的になります。開発担当者と弁理士は、その構成から課題の解決に欠かせない部分と、変更できる部分を分けて考えます。

開発担当者は、次の構成や試験結果を弁理士へ説明します。

一つの試作品だけを前提にすると、権利範囲が必要以上に狭くなることがあります。

出願内容を広げる場合は、その構成を明細書で説明できるかも検討します。弁理士は、実施例と技術的な根拠から、説明できる範囲を判断します。

5. 公開前に、出願の要否と時期を決める理由

特許を受けるためには、原則として、出願前に公衆へ知られていない新しい発明であることが必要です。

出願しようとする発明と同一の内容が出願前に公衆へ知られた場合は、新規性が否定され、特許を受けることができません。

公開に当たり得る行為には、例えば次のものがあります。

新規性の判断では、公開内容から発明の技術的な構成を理解できるかが問題になります。

企業側は、公開する資料やデモの内容を弁理士と共有し、公開前に出願の要否を決めます。

公開してしまった場合

自ら公開した発明については、新規性喪失の例外規定を利用できる場合があります。

例外規定の適用には、原則として公開から1年以内の出願が必要です。出願時に適用を受ける旨を示し、出願日から30日以内に、公開の事実等を証明する書面を提出します。

もっとも、この制度は「公開しても1年間は権利が予約される」という制度ではありません。公開から出願までの間に第三者が関連する発明を公開した場合や、第三者との出願関係など、救済されない問題があります。

公開後は、自分で判断して出願を先延ばしにせず、次の資料を保存して早めに相談してください。

外国への出願を予定している場合

国や地域によって、猶予期間の有無や対象となる公開は異なります。

例えば欧州特許条約では、明白な濫用や所定の国際博覧会での展示などに対象が限定されています。中国にも例外規定はありますが、対象となる公開事由は限定されています。

海外での権利取得を検討している場合は、日本の例外規定が外国でも同様に適用されると考えず、公開前に出願方針を確認する必要があります。

6. 外注・共同開発で、発明者と権利の帰属を調べる

外部の開発会社、大学、取引先などと開発する場合は、各当事者が、発明の完成に関与した人とその貢献を記録します。契約書とその記録から、特許を受ける権利の帰属・承継を調べます。

各当事者は、少なくとも次の情報を共有し、帰属、利用、費用、公開の条件を合意します。

特許を受ける権利が共有である場合は、共有者全員で出願しなければなりません。一部の共有者だけで出願すると、共同出願要件違反として拒絶や無効の問題が生じます。

また、登録後の特許権を共有する場合、各共有者は契約で別段の定めをしない限り、自ら特許発明を実施できます。一方、持分の譲渡や第三者へのライセンスには、ほかの共有者の同意が必要です。

共同開発の当事者は、登録後に各社が実施する範囲、第三者への許諾、費用負担も契約に盛り込みます。

7. AIサービスの構想段階では、何を相談できるか

相談前の状況

ある会社が、商品の在庫切れを減らすため、販売実績、天候、曜日、販促情報などから需要を予測するAIサービスを企画しているとします。

この段階では、学習モデルや画面の仕様は完成しておらず、試作品もありません。

相談で具体化する内容

まず、「AIを使って需要を予測する」という事業上の目的だけでなく、具体的な情報処理を明らかにします。

この検討によって、特許として検討できる情報処理、今後の開発で検証すべき部分、出願前に必要な実施例などが見えてきます。

サービス名は商標、画面表示は要件を満たす場合に意匠、プログラムの具体的な表現は著作権、非公開のデータ処理条件は営業秘密としての管理が関係することもあります。

一つのサービスでも、すべてを一つの権利で守るのではなく、保護対象ごとに制度を組み合わせて考えます。

8. 製造現場の改善は、どの段階で相談するか

相談前の状況

工場の作業者が、部品を正しい位置に固定しやすくするため、既存の治具に新しい位置決め機構を追加したとします。

試作品は社内で使用していますが、まだ取引先への提供や展示はしていません。

相談で具体化する内容

作業者や開発担当者は、次の改善内容と開発の経緯を弁理士へ説明します。

治具など、物品の形状、構造または組合せに関する工夫では、特許だけでなく、実用新案が選択肢になることもあります。

実用新案は実体審査を経ずに登録されますが、権利を行使するには、実用新案技術評価書を提示して警告する必要があります。早く登録されることだけで選ぶのではなく、技術の内容や事業計画に応じて特許と比較する必要があります。

従業者が行った改善の場合

現場の改善が従業者によるものであれば、出願直前ではなく、社内で成果の取扱いを決める段階で確認が必要です。

職務発明規程等により、権利が発生時から会社に帰属する方式と、従業者から会社が承継する方式があります。会社は、発明者、適用する規程、承継手続、相当の利益の取扱いを調べ、その結果を踏まえて出願人を決めます。

9. 出願しない場合に検討したいこと

相談の結果、直ちに特許出願をしないという判断になることもあります。

例えば、次のような方針が考えられます。

営業秘密として管理する場合は、単に社外へ公開しないだけでなく、アクセス制限、秘密表示、社内規程、持出し管理、退職者対応などを検討する必要があります。

また、開発記録は、先使用権などを後から立証する資料になり得ますが、記録があるだけで先使用権が成立するわけではありません。

先使用権には、他者の特許出願時に日本国内で発明の実施事業またはその準備をしていたことなど、別の要件があります。記録は権利そのものではなく、事実関係を立証するための手段です。

10. 相談前に、公開状況・予定と関係者を伝える

相談前に、完璧な説明資料を作る必要はありません。解決したい課題、工夫の概要、現在の進捗段階、関連する技術の認識という基本の4項目については、発明がまとまっていないとき、相談前に確認したい4項目で具体例とともに解説しています。

相談の時期を決めるうえでは、公開・提供の予定と、発明に関与した人や会社を最初に伝えてください。出願の準備期間と、権利関係を調べる作業の見通しを立てる手がかりになります。

公開・提供の予定

予定している日付を相談時に伝えてください。すでに実施したものについては、実施日と内容を記録からたどります。

出願前の公開は、新規性の判断に影響します。自ら公開した場合は、公開から1年以内の出願と所定の手続によって例外規定を利用できることがあります。その間の第三者の公開や出願には、別の検討が必要です。

公開の時期は、日本国内だけの問題でもありません。例外規定の有無と条件は国によって異なるため、海外での権利取得を視野に入れているなら、公開前に出願方針を決めておく必要があります。

発明に関与した人・会社

社内の開発者に加え、外注先、共同開発先、大学、取引先など、技術の具体化に関与した人と会社を書き出します。出願人を決める前に、弁理士と発明者を特定し、契約・規程から権利の帰属を調べます。

特許を受ける権利が共有である場合は、共有者全員で出願しなければなりません。一部の共有者だけで出願すると、共同出願要件違反の問題が生じます。

相談準備ナビで、伝える内容を書き出せます相談準備ナビは10問で構成され、この二つ(公開状況・予定/関与した人・会社)に加えて、技術テーマ、課題、工夫の概要、進捗段階、関連技術の認識なども順に確認します。すべて埋められなくても、現時点で分かる範囲から始められます。

11. よくある質問

アイデアだけでも相談できますか

はい。解決したい課題と、考えている解決方法があれば相談できます。

技術的な手段が未定の場合は、まず課題の解決方法を具体化します。相談では、今後の試作や調査で検証する点と、公開前に決める事項を明らかにします。

試作品がなくても特許出願できますか

試作品がなくても出願できる場合があります。

構造、処理、動作などを、その技術分野の通常の知識を持つ人が実施できる程度に明確かつ十分に説明できることが条件です。

すでにWebサイトや展示会で公開してしまいました

公開日、公開した内容、公開方法が分かる資料を保存し、できるだけ早く相談してください。

新規性喪失の例外規定を利用できる場合がありますが、原則として公開から1年以内の出願に加え、出願時の手続と出願日から30日以内の証明書提出が必要です。また、日本で例外規定を利用できても、外国で同様に救済されるとは限りません。

従業員が考えた改善は、当然に会社のものになりますか

権利の帰属と承継方法は、職務発明規程等によって異なります。会社は、適用する規程と必要な社内手続を調べてから、出願人を決めます。

共同開発した発明を自社だけで出願できますか

特許を受ける権利が自社へ適法に集約されていれば、自社だけで出願できる場合があります。

一方、その権利が共同開発先との共有である場合は、共有者全員で出願しなければなりません。契約書、発明者、開発への具体的な関与を確認する必要があります。

相談前に先行技術調査をしておく必要はありますか

必須ではありません。知っている競合製品や類似技術があれば共有してください。必要に応じて、相談後に調査の範囲や時期を検討します。

12. まとめ

構想や試作の段階で相談すると、技術の具体化、公開、契約、出願準備を並行して進められます。

構想段階では、発明として具体化すべき部分を特定できます。試作段階では、必須の構成や別の実施方法を検討できます。公開前であれば、出願と発表の順序を選ぶ余地があります。

次の予定がある場合は、その日付に合わせて相談と出願準備を進めます。

まだ出願できるか分からない段階でも構いません。

「何を準備すれば出願を検討できるのか」「公開前に何を決めるべきか」を見極めるところから、特許相談を利用できます。

13. 参考資料

  1. 特許庁「初めてだったらここを読む~特許出願のいろは~」
  2. 特許庁「特許・実用新案とは」
  3. 特許庁「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について」
  4. 特許庁「職務発明制度の概要」
  5. 特許庁「先使用権制度について」
  6. 特許庁「実用新案出願のいろは」
  7. e-Gov法令検索「特許法」
  8. 欧州特許庁「EPC Article 55—Non-prejudicial disclosures」
  9. 中国国家知識産権局「Patent Law of the People’s Republic of China」

執筆・文責

弁理士 中村幸雄

AIサービス、ソフトウェア、業務フロー、試作・現場改善に関する発明発掘・特許相談を扱う弁理士。「発明の余白」では、まだ曖昧な技術構想や現場の工夫から、発明のポイントを見つけるための情報を発信しています。