執筆・文責:弁理士 中村幸雄

近年、生成AI・AIエージェント・RAG(検索拡張生成)を組み込んだAIツールが広がりを見せています。

IDCは、世界のAI関連支出が6300億ドルを超えると予測しており、今後も多くのサービスや業務システムにAIが組み込まれていくことでしょう。

このように急速にAIが進歩する時代だからこそ、いち早く特許で市場のポジションを確保していく――その重要性が増していると言えます。

では、生成AIを使った機能、AIエージェント、RAGを組み込んだAIツールで特許権を取得することは可能なのでしょうか。

結論から言えば、「AIを使っている」それだけでは特許を取得することはできません。

しかし、AIの前後でどのような処理を行い、どのように業務に組み込み、どのような技術的な効果を生じさせているか――それらを整理していくことで特許の種を見つけることはできます。

この記事では、「AIを使ったどのような工夫が特許となり得るか」を整理したいと思います。

「AIを使っただけ」では足りない

ChatGPTに文章を書かせる・AIに質問を投げる・RAGで検索して回答させる——これだけでは特許の取得は困難です。

一方で、実際のAIサービスでは、生成AIの処理の前後に多くの制御処理が組み込まれています。例えば、以下のような処理です。

こうした「AIの前後で、どのような処理を行っているか」が重要になります。

「AIを使っただけ」と「発明になり得る工夫」の違い

ケース 特許検討の余地
ChatGPTに文章を作らせるだけ 低い
入力内容を分類し、用途ごとにプロンプトを切り替える あり得る
RAGで社内文書を検索して回答するだけ 低〜中
文書種別や権限に応じて検索範囲を制御する あり得る
AIエージェントに作業を任せるだけ 低い
複数エージェントの役割分担や再実行制御を行う あり得る
AIで推薦するだけ 低い
ユーザー状態に応じて推薦順序を動的に変える あり得る

重要なのは、「AIを使ったか」ではなく、「どのような処理構造・制御・連携を設計しているか」です。

AI活用機能の何を見るのか

生成AIを組み込んだ機能の場合、AIモデルそのものよりも、その周辺の処理設計に特徴が現れます。具体的には、

「AIそのもの」よりも、その前後に組み込まれた処理の仕組みに工夫がある、それは決して珍しいことではありません。

RAGのどこに独自性が表れるのか

RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、検索と生成AIを組み合わせる手法として広く普及しています。文書を検索してAIに渡すこと自体は一般的な実装に過ぎません。しかし、以下のようなポイントには独自性が現れることがあります。

「どの情報をどの条件で検索対象にするか」はサービスの品質に直結します。これは、事業としても発明としても重要なポイントになります。

AIエージェントでは、何が論点になるのか

AIエージェントは自律的に動いているように見えますが、実際には多くの処理条件や実行制御によって動いています。特許的には、以下のような処理構造が重要な論点になります。

近年、複数のAIエージェントを連携させる構成も増えています。「どのエージェントが、どの条件で、どの処理を担うのか」という制御設計にも発明の種が見つかることがあります。

業務自動化・推薦ロジックの着目点

AIを活用した業務自動化・推薦ロジックでは、AIモデルそのものよりも、業務設計の側に特徴があることも少なくありません。

業務自動化では、どの作業をAIに任せるか・どこで人が確認するか・例外処理をどう扱うか・誤処理をどう検出するかといった設計が差別化ポイントとなり得ます。

推薦ロジックでは、何を特徴量として使うか・どのタイミングで推薦するか・推薦順位をどのように変えるか・ユーザーの反応をどう反映するかに独自の特徴が表れやすいでしょう。

よくある質問

Q ChatGPTを使ったサービスは特許になりますか?

ChatGPTを使っているだけでは難しい場合がほとんどです。ただし、入力処理・出力制御・外部システム連携・判定ロジック・業務フロー設計などに技術的な特徴があれば、特許の対象になり得ます。

Q RAGは特許になりますか?

RAGを使うこと自体ではなく、検索対象の制御・文書管理・権限処理・回答根拠の提示・更新情報の扱いなどに、具体的な工夫があるかどうかがポイントになります。

Q AIエージェントは特許になりますか?

タスク分解・実行制御・例外処理、複数エージェントの連携、人間による確認フローなど、AIエージェントの処理構造に特徴があれば、特許の対象になり得ます。

Q プロンプトの工夫は特許になりますか?

指示文そのものではなく、どの条件でプロンプトを切り替えるか・出力結果をどう制御するか・他の処理とどう連携するかといった、システム設計として整理できるかが分かれ目です。

AIを使ったことではなく、AI前後の設計・組み込み方・制御

AIサービスでは、「AIを使っている」という事実そのものよりも、どのように入力を整理するか・どのように出力を扱うか・どのように業務へ組み込むか・どのように制御するかという設計の中に、発明の手がかりがあることも少なくありません。

「まだ整理できていない」「どこが発明なのかわからない」という段階でも、構いません。発明の余白では、AI機能の発明の手がかりを、事業・開発フローも踏まえながら一緒に整理しています。

執筆・文責

弁理士 中村幸雄

AIサービス、ソフトウェア、業務フロー、試作・現場改善に関する発明整理・特許相談を扱う弁理士。 「発明の余白」では、まだ曖昧な技術構想や現場の工夫を、発明のポイントとして整理するための情報を発信しています。