執筆・文責:弁理士 中村幸雄(登録番号 第12870号)

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この記事の結論

試作、製造工程の改善、現場の治具、研究開発メモ、構想段階のアイデアも特許相談の対象になり得ます。従来の構造や手順から何を変え、その変更がどの課題をどう解決するかを整理します。ただし、自社の従来品と違うだけで特許になるとは限らず、先行技術との比較も必要です。外部に見せる前に、工夫の内容と公開予定を確認することが重要です。

「特許にならないかもしれない」で止まっていませんか

特許相談の対象になるのは、明確に「発明」として設計されたものだけだと思っていませんか。

実際には、製造工程の改善、現場での試行錯誤の結果、研究開発段階のメモ、試作品に込めた工夫など、本人が「発明」と呼んでいないものの中にも、特許として保護できる技術が含まれていることがあります。

問題は、それが発明かどうかの判断を、本人が一人で下してしまっていることです。弁理士に話す前に「これは特許の話ではない」と思い込み、相談の機会そのものが生まれないまま終わっているケースが少なくありません。

相談対象になりうる技術の具体例

以下のような段階や形態のものであっても、特許相談の対象になり得ます。

Case 01

製造工程の改善

既存の生産ラインの一部を変更し、歩留まりを改善した。方法としては地味だが、従来にないアプローチが含まれている。

Case 02

現場レベルの工夫

現場の担当者が独自に考案した治具、組立手順、検査方法。社内では「ちょっとした工夫」として共有されているが、技術的に新しい可能性がある。

Case 03

試作段階の技術

まだ量産化されていないが、試作レベルで動作する技術。最終的な仕様は固まっていないが、中心となるアイデアが明確にある。

Case 04

研究開発メモ・構想段階のアイデア

研究ノートや社内共有資料に記録された技術的な着想。まだ検証段階だが、新しい課題の捉え方や解決の方向性に独自性がある。

これらはいずれも、出願に値するかどうかの判断材料にはなります。重要なのは、完成度ではなく、技術として何が新しいかです。

設例:部品の逆向き固定を防ぐ治具

例えば、左右が似た部品を組み付ける現場で、向きの確認を目視に頼っていたとします。作業者は治具に小さなガイドを追加しました。以下は、変更した構造とその意味を整理するための仮想例です。

治具の変更前・工夫・狙う効果・確認事項
項目設例の内容
変更前左右が似た部品を、作業者が目視で向きを確認して治具に固定していた。逆向きでも固定できる構造だった。
工夫部品の端部形状に対応するガイドを追加し、逆向きでは所定の位置まで入らず、固定できない構成にした。
狙う効果逆向きでの固定を防ぎ、目視確認への依存を減らす。実際に確認できた効果と、期待する効果を分けて記録する。
特許を検討する際の確認ガイドの形状・配置・固定機構の関係を整理し、既存の誤組付け防止治具と比較する。

着眼点は、ガイドを追加したという作業そのものより、部品の向きと固定の可否を、どの形状や配置で結び付けたかです。図面や変更前後の写真があれば、部品との対応関係、ガイドが干渉する位置、固定機構との関係を説明できます。効果は実機で確かめ、確認済みの現象と予測を分けます。

ただし、同じ構成が既存の治具に使われている場合や、先行技術から容易に考えられる変更である場合は、特許にならないことがあります。自社の従来品との違いを整理したうえで、新規性・進歩性の観点から確認する必要があります。

この例から自分の工夫を見直す際には、後述の5つの質問も使えます。相談する時期を確認したい場合は、構想・試作・公開前の相談タイミングをご覧ください。

生産量が増えたことで不良や設備停止の損失が拡大した場合は、増産時の課題から発明候補を探す視点も有効です。

試作品を公開する前に特許相談した方がよい理由

試作品や現場の工夫が相談の対象になることは、ここまでに述べたとおりです。ただし、「相談できるかどうか」とは別に、いつ、その試作品を外部に見せるかには、注意しておきたい順番があります。

「公開」は、思っているより早く起きる

特許の新規性を考えるうえでは、出願前に、発明の内容を守秘義務のない相手に明らかにしたり、インターネットなどを通じて公衆が知り得る状態にしたりしていないかが重要です。

発明の内容を知り得る態様で展示、発表、販売などをすると、出願前の公開に当たり、新規性に影響することがあります。行為の名称だけで判断せず、何が、誰に、どの条件で知られるかを確認します。

公開に当たり得る行為と、事前に確認すること
行為技術内容が伝わるもの事前に確認すること
展示会・見本市現物、実演、配布資料構造や仕組みをどこまで見せるか
取引先・顧客への提示デモ、図面、説明資料相手の守秘義務、開示範囲、資料の取扱い
クラウドファンディング掲載文、写真、動画内部構造や動作原理が分かる情報を含むか
SNS・ブログ・動画投稿本文、画像、実演動画掲載内容と公開日時を把握しているか
論文・学会発表本文、要旨、予稿、発表資料どの資料が、いつ公開されるか
製品の販売・提供製品、添付資料外観・分解・使用から、どの技術内容が分かるか

一方、秘密保持契約その他の守秘義務を負う限られた相手にだけ開示した場合には、直ちに公然知られたことになるとは限りません。ただし、守秘義務の有無や、どの情報をどのように見せたかによって判断が変わるため、個別の確認が必要です。

公開してから出願すると、原則として特許を受けられない

日本の特許制度では、出願前に公然知られた発明、公然実施された発明、刊行物に記載された発明、インターネットなどを通じて公衆が利用可能になった発明は、原則として特許を受けることができません。

そのため、試作品を先に展示、発表、販売などして発明の内容を公開すると、新規性が失われ、後から出願しても権利化できなくなることがあります。

救済規定はあるが、「公開してよい」という意味ではない

この原則には、特許法第30条に定められた「発明の新規性喪失の例外」があります。

自らの行為に起因して発明を公開した場合などには、公開の日から1年以内に特許出願し、所定の手続を行うことで、その公開によって新規性が失われなかったものとして扱われる可能性があります。

自らの行為に起因する公開について例外の適用を受けるためには、原則として、次の手続が必要です。

注意したいのは、これが原則に対する救済であって、公開を前提に日程を組むための制度ではないということです。

自らの公開とは別に、第三者が同じ発明を先に出願または公開していた場合には、この例外の適用を受けても特許を取得できないことがあります。

したがって、原則は公開前の出願であり、例外規定の利用を前提として展示、発表、販売などの日程を組むべきではありません。

原則は「公開前の出願」です。 特許法第30条の例外規定は、万一、出願前に公開してしまった場合の救済であって、公開の予定を立てる際の前提とするものではありません。

海外を視野に入れるなら、さらに注意が要る

日本の特許法第30条による扱いが、そのまま外国でも認められるわけではありません。

国・地域によって、新規性喪失の例外の有無、認められる期間、対象となる公開行為、必要な手続などが異なります。自らの公開によって、日本では例外の適用を受けられても、別の国では特許を取得できなくなる可能性があります。

海外への展開を少しでも考えている場合には、日本だけでなく、出願を検討する国・地域の制度も踏まえて、公開前に相談しておくことが重要です。

「試作した直後」「外部に見せる前」は重要な相談時期

試作品は相談の対象になりますが、外部に見せる時期や方法によっては、権利化の選択肢が狭まることがあります。

そのため、試作ができた段階や、これから展示、商談、販売、クラウドファンディングなどを予定している段階は、相談を検討すべき重要な時期の一つです。

「まだ公開していないが、近いうちに外部へ見せる予定がある」という場合には、その予定が動き出す前に一度ご相談ください。

(参考)特許庁「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について」

すでに学会発表や展示会出展をしてしまった場合は、「発表してしまった後でも特許出願は間に合うか」をご覧ください。

「ちょっとした工夫」を見直す5つの質問

自分にとって自然な作業や、社内で日常的に使う仕組みは、「当たり前のこと」に見えやすいものです。「特許は大発明のためのもの」というイメージから、小さな変更を相談の対象外と感じることもあります。従来のやり方と比べながら、次の質問で変更した箇所と、その意味を整理してみてください。

  1. 熟練者の勘や手作業の調整を、どの構造・手順で置き換えましたか。
  2. 部品の形状・配置・動作の関係を、どこで変えましたか。
  3. その変更がなければ、どの問題が残りますか。
  4. 効果が出る条件と、まだ問題が残る条件は何ですか。
  5. 試作品全体が目標未達でも、改善できた現象はありますか。

前述の治具の設例なら、最初の質問には「目視による向きの確認を、ガイドによる固定可否に置き換えた」と答えられます。次に、ガイドの形状や配置、正しい向きで固定できる条件を説明することで、変更の技術的な意味を整理できます。

分からない項目も、相談で確認する事項として残せます。 この質問は工夫を整理するためのもので、回答の数で特許になるかを判断するものではありません。現時点で分かる内容と未確認の内容を分けて共有し、先行技術との比較や追加の確認を進めます。

相談の際に必要なもの

完璧な資料は不要です。初回の相談段階では、以下のような情報があれば十分です。

図面や仕様書がなくても、口頭でお話しいただくだけで確認を始められます。技術テーマと課題の概要を事前にまとめたい場合は、相談準備ナビをご活用ください。

「特許の話かどうか分からない」まま、相談してください

このブランドは、「特許を出したい」という明確な意思を持った方だけを対象にしているわけではありません。「自分の技術が特許になるか分からないけれど、一度話してみたい」という段階の方にこそ、初回無料相談をご利用いただきたいと考えています。

検討の結果として「今回は特許出願には向かない」と判断される場合もあります。それも含めて、相談してよかったと思える場を提供することが、このサービスの役割です。

試作・現場改善と特許に関するよくある質問

販売する製品ではなく、社内で使う治具や製造工程も特許の対象になりますか?

対象になり得ます。ワークの固定方法、位置決め、検査手順、加工条件の制御なども発明の候補です。社内専用かどうかではなく、どの課題を、どのような構造や処理で解決しているかを確かめます。特許として公開するか、秘密として管理するかも合わせて検討します。

市販の部品を組み合わせただけでも、特許を検討できますか?

検討できます。ただし、既存部品を組み合わせたというだけで特許になるわけではありません。部品同士の関係、配置、動作の連携などにどのような工夫があり、従来の方法と何が違うかを確認します。組合せを容易に思いつけるかという進歩性の検討も必要です。

改善効果を数値で測定する前でも相談できますか?

相談できます。現時点の構造や処理、期待する効果、確認できている現象を、分かる範囲で教えてください。実測した結果と、まだ予測にとどまる効果は区別します。出願を検討する際には、技術分野や発明の内容に応じて、追加の試験や説明が必要かを確認します。

目標性能に届かなかった試作品にも、発明の候補はありますか?

あります。試作品全体が未完成でも、振動を抑えた構造、異常を検出する処理、組立てを容易にした工夫などに着目できます。達成できたことと未解決のことを分け、どの変更がどの現象に影響したかを記録すると、発明の候補を検討しやすくなります。

参考資料

  1. 特許庁「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について」
  2. 特許庁「特許・実用新案審査基準 第III部 第2章 新規性・進歩性」

執筆・文責

弁理士 中村幸雄

AIサービス、ソフトウェア、業務フロー、試作・現場改善に関する発明発掘・特許相談を扱う弁理士。 「発明の余白」では、まだ曖昧な技術構想や現場の工夫から、発明のポイントを見つけるための情報を発信しています。